滋賀県内で、障害のある人による音楽やダンスなどの表現活動に携わる人が集まり、「表現活動に携わる人の人材育成」について考える、意見交換会を行いました。2021年の3月に、二回に分けて実施しました。
集まったのは、福祉施設で表現活動に携わっている、障害のある人の保護者の立場で任意団体を運営しているなど、様々な立場の方です。
<参加者>
廣部誠子さん(和太鼓チーム湖星紅)
居松美穂さん(地域活動支援センター バンバン)
山田純鈴さん(地域活動支援センター バンバン)
川島民子さん(滋賀大学教職大学院 ※当時)
西川賢司さん(社会福祉法人グロー)
意見交換会を行うにあたり、まず人材育成や障害のある人の表現活動の最終アウトカム(目指したい社会状況)を設定し、最終アウトカム実現に貢献する中間的な成果を「障害者の表現活動を適切に指導・運営できる人材が育つ。またそのための環境が整備される」と設定しました。そしてその達成に繋がる活動による直接的な成果として、「1.障害者の表現活動に魅力を感じる」「2.表現活動に感じる魅力や活動するうえでの課題を他者に伝える」「3.表現活動の理解者が増える」「4.表現活動を企画・運営する」という4つの要素が循環する構図を想定しました。(図1)
第一回の意見交換会では、4つの要素のうち「1.障害者の表現活動に魅力を感じる」ということと、「2.表現活動に感じる魅力や、続ける上での課題を伝える」ということについて意見を交換しました。その概要を以下にまとめました。
【第一回意見交換会の概要】
・一緒にやっていると、「出来る/出来ない」ではない、自由にやれる価値観があり、魅力的に感じる。
・みんなで音や振りを合わせる等、できるようになったりうまくいくようになることや、みんなでそれを共有することの達成感がある。
・素直に楽しんでいたり、生き様が表現になっている様子が魅力的だ。
・自由にやれることの魅力/みんなで合わせることの魅力、どちらの選択肢もあり、それらが自由に選べたり、一緒に出来るやり方があれば、より魅力を感じられるのではないか。
・映像を撮影する、少人数でのワークショップを行うなど、一人ひとりの個性に着目したやり方をしてみたら良いのではないか。
・講師との振り返りの時間が、魅力を言語化したり共有できる機会となっている。
・保護者も巻き込んで一緒に参加してもらうことで、魅力を感じてもらっている。巻き込むのが一番わかってもらえると思う。
・外の人に見てもらうことで、魅力を感じてもらうだけでなく、普段やっていると気が付かない魅力を教えてもらうこともあり、重要だと思う。
→魅力を伝える方法には、言葉による伝達以外にも、活動を見学してもらう、実際に参加してもらうなど様々な方法がある。また、魅力を他人に伝えていくことの重要性や目的が、それぞれの活動の目的によっても違ってくる。
第二回では「3.理解者が増える」ということと、「4.企画・運営する」ということについて意見を交換しました。その概要を以下にまとめました。
【第二回意見交換会の概要】
・観客、スタッフ、参加者の人数が増えるということではなく、活動に取り組んでいる人たちが繋がるということではないか。また、活動をする人が「繋がった」と実感を持ったり、「繋がりを持って活動している」と言い切れることだと思う。
・興味があったり理解している人たちはたくさんいるが、生活の中で他のことに比べて優先順位が低いために、活動に関わってもらえなかったり、関わっても継続的な関わりにならないことがある。理解する、というだけでなく継続的に関わってもらいたいし、優先順位が低い人でも繋がれる場があれば良いと思う。
・“理解”を考えたときに、理解者の数が増えて活動が広がっていくというよりも、表現活動の意味や価値が深く社会に根付き、位置づくことがまずは大事で、それが理解者が増えることにもつながると思う。
・保護者、管理職員、担当職員、興味を持ってくれそうな友人ん、ホール等施設の関係者、表現活動に関わるミュージシャン等
・“理解”を図として考えたときに、全員が同じ中心となる価値観を持って一つのことを理解するというのはしんどいと思う。それぞれの中心となる軸や繋がり方があり、例えば「この部分だけは少し理解できる」というような、緩やかな理解を想定することが、理解を広げていく上で大事ではないか。
・〈福祉事業所での表現活動〉経営や継続性を考えると、内向きな運営になりがちという課題がある。
・〈任意の表現活動団体〉活動をとにかく続けていくことが目的。ボランティアで来てくれる人が続かないことが課題。
・〈任意の表現活動団体〉余暇活動を目的としている。課題として、道具がないこと。スタッフの高齢化や交通の便が悪く移動が困難であることなど、閉鎖的な地域であること。人員的に新しい参加者や講師に十分な対応ができないことがある。
→登録制のボランティアの仕組みを作る(ボランティアの質の確保は課題)。
→活動している団体同士が知り合うことから始める。
→伝統芸能とのコラボ等、「外に開いていきたい」「新しい一歩を踏み出したい」と考えているコミュニティとのコラボレーションを行う。
→福祉事業所と任意団体の活動など、業態の違うところ同士のコラボレーション。
→必ずしも活動団体単位ではなく、個人単位での繋がりを作る。
一回目で話し合った障害のある人の表現活動の魅力については、参加者それぞれの個別の経験に基づくものであると同時に、お互い共感しあったり、共通する内容が多くありました。一方で、主に二回目で話し合った、それぞれの活動の目的や現状の課題については、表現活動に携わる立場の違いや、福祉事業所での活動か任意団体としての活動かといった活動形態の違いによって異なることが分かりました。
どのような活動形態であれ、すでに活動している人たちが繋がる機会があることで、お互いの活動がより充実したり、障害のある人の表現活動が県内全体に広がっていくのではないかという意見もありました。
滋賀県内で障害のある人の表現活動の場づくりや環境づくりを行う事業において、今後このような意見を反映していきたいと思います。